出張型サロンという新提案|北米で広がる新しい美容ビジネス
「店舗を持たない」選択肢が現実に

2025年、北米の美容業界では“出張型サロン”と呼ばれる、専用車両を使った美容サービスが静かな広がりを見せています。
美容師やネイリスト、メイクアップアーティストが自分の車を改装し、顧客の自宅やオフィスを訪問して施術を行うスタイルです。
これまでの出張サービスは「簡易対応」のイメージがありましたが、最近ではサロン空間そのものを車内にデザインするケースが増えています。
照明や水回り、ミラーや施術チェアを備えた小型サロンとして設計され、まるでプライベートスタジオのような空間が人気を集めています。
特にアメリカ西海岸やカナダ・バンクーバーでは、環境負荷を抑えた働き方を志向する個人オーナーが、このモデルを選ぶ傾向にあります。
顧客の「移動負担」を減らす新しい価値
出張型サロンが注目される背景には、時間の制約がある生活者のニーズがあります。
フルタイム勤務や子育て、介護など、サロンに出向く時間を取りづらい層にとって、サービスを「受けに行く」から「来てもらう」へと変わることは大きな価値です。
自宅や職場の近くで施術を受けられることで、移動や待ち時間のストレスが減り、満足度が高い傾向にあります。
現地紙『Modern Salon』(2025年3月号)でも次のように紹介されています。
「朝の出勤前にオフィスの駐車場でヘアセットをお願いできるなんて思わなかった」
— カリフォルニア州在住・利用者インタビューより
起業家にとっての“リスクを減らす選択肢”
出張型サロンのもう一つの強みは、初期費用と固定費の低さです。
店舗のテナント契約や光熱費が不要なため、少ない資本で始められる点が魅力です。
アメリカのスタートアップ支援団体「Beauty Mobility Inc.」によれば、出張型サロンの初期投資額は3万〜6万ドル程度。
一方、固定店舗型サロンの開業コストは10万ドルを超えることが多く、経済的リスクの差は明確です。
さらに、予約アプリやSNSを活用した顧客管理が容易なため、運営の効率化も進んでいます。
法規制という課題と、広がる可能性
一方で、各州や自治体によって衛生・営業許可の条件が異なるため、免許の有効範囲や設備基準の統一が今後の課題とされています。
それでも、コロナ禍以降の「小さく始めて柔軟に働く」価値観に合致し、出張型サロンの人気は着実に拡大しています。
店舗を持たないことが“自由”であるだけでなく、
顧客の日常に寄り添う“新しい責任”と捉える経営者が増えているのです。
Femmee 編集部コメント:
「美容を届ける」という発想が、これまでのサロン業界を再定義しつつあります。
出張型サロンは、場所に縛られない働き方を実現しながらも、顧客との関係をより深く築くことができる――
そんな“動くサロン”の時代が、静かに始まっています。
